シュタイナー教育とは
シュタイナー教育は、
「自由への教育」と言われています。
一人の人間として、自分の足で立ち、自分の人生を自己責任で、
自由に生きることができる人間を育てるのが、
シュタイナー教育だと私たちは考えています。
それは、例えば、いい大学に入って、いい会社に入って…
というような一般的な価値観にとらわれず、
本当に自分がやりたいこと、本当に自分に合っていることを、
自分の責任において、自由に選び取ることができるということです。
そして、
子どもへの限りない愛があること
教師自身が真摯に学び続けること
が、シュタイナー教育の大きな特徴だと思います。
このことは、シュタイナー教育に限ったことではないのですが、
本当の意味で、これができている学校はあまりないのではないかと思います。
「シュタイナー教育」とは、ルドルフ・シュタイナーという思想家が確立させた教育法で、
100年ほど前からドイツを中心に広がり、現在では世界各国で実践されています。
リズムや感覚・体験を重視し、芸術活動を多く取り入れた独自の自由教育です。
7~18歳まで12年間一貫教育体制をとっており、
そのカリキュラムのユニークさから、多くは私立学校の形態をとっています。
シュタイナー教育についておおまかに説明すると
およそこんな感じです。
いつも、「シュタイナー教育ってなに?」と聞かれると、
カリキュラムのことや、子どもの成長段階のことなど、
いろいろ説明するべきことはあるのですが、
それよりも何よりも、いちばん大切な根幹の部分は、
子どもへの限りない愛と
教師自身が真摯に学び続ける姿勢であると思っています。
もう少し詳しく「シュタイナー教育」について説明するには、
シュタイナーが考える人間の成長の段階について
少し触れたいと思います。
7年周期の成長の段階と「9歳の危機」
シュタイナーは、人間の成長の段階を、7年周期でとらえていて、
7年×9周期=63歳で、人間はひとまず完成を迎える、としています。
(63歳以降はさらに深い霊的な成長の段階に入ります)
21歳を成人、ひとまずの自立の時期とみなし(本当の意味での自立はもう少し後です)、
その自立の時期までの21年間(7年×3周期)を
子ども時代のみならず、一生に関わるとても重要な時期であると考えています。
0~7歳の7年間は、意志(=手足=体)を育む時期。
小さな赤ちゃんが小学生になるほどの、大きな成長の力を必要とします。
そのために、安心できる場所、リズムのある生活、手足を使った体験が重視されます。
シュタイナー教育が早期教育や英才教育を行わないのは、
この時期、体をつくることにエネルギーを集中させるためです。
この時期の子ども達は「世界が善である」ということを疑いません。
7~14歳までは、感情を育む時期です。
7歳までにしっかりつくられた体を土台に、心を育んでいきます。
低学年の子どもたちは、世界と自分は一体であるという感覚を持っていて、
ファンタジーの世界の中で生きているようなところがあります。
お友達も先生も、お父さんもお母さんも、動物や花や木や草もみんな一緒、という感覚です。
この時期は、音楽や美術などの芸術活動を通して
「世界は美しい」ということを学びます。
それが、9歳前後を境に、「自分と他人は違う」ということに気づき始めます。
友達も、先生も、お父さんも、お母さんも、自分とは違う存在なんだ、
ということに、気づいてしまうのです。
(話がそれますが、いわゆる「いじめ」が目立ち始めるのも、9歳以降が多いようです)
自立の第一歩である、“自我のめざめ”を迎えます。
その時期のことを、シュタイナー教育では、
「9歳の危機」や「ルビコンを渡る」などと呼んでいます。
古代ローマの戦士カエサルが、祖国ローマと戦う覚悟で兵を率いて越えた川が、
現在のイタリア北部にあるルビコン川であったといわれています。
ルビコン川のほとりで、カエサルが発した「賽は投げられた」という言葉はあまりにも有名です。
シュタイナ―教育でいう「ルビコン」とは、いわゆる「9歳の危機」と呼ばれるもので、
“もう二度と戻れない”という意味合いで、
カエサルが決死の覚悟でルビコン川を渡った話になぞらえ、
子どもだけのファンタジーの世界と決別する、9歳前後の子ども達の様子をたとえ、
「ルビコンを渡る」などと形容しています。
また、「自分」と他人、「自分」と世界…その意識に目覚めることを、
『旧約聖書』のアダムとイヴの「楽園追放」の話に例えることもあります。
9歳前後の不安定な状態は、裸のまま楽園を追い出された
アダムとイヴの戸惑いそのものであるともいえます。
この頃の子ども達は心身共にとても不安定で、
急に甘えてみたり、時に大人びた表情を垣間見せたり、
あちらとこちらを行きつ戻りつしながら、ルビコンを渡って行きます。
この時期の子ども達は、成長のスピードがとても早く、めまぐるしい変化を迎えており、
毎回会うたびに、表情や、ふとしたしぐさ、雰囲気がどんどん変わっていき、
本当に「ルビコンの真っただ中にいる」と感じます。
家づくり・米づくり・羊毛体験は、
生活の基本である衣・食・住を、自らの手で生み出すことで、
自立の第一歩を踏み出す後押しとする、という意味が一つにあります。
もう一つには、ルビコンを迎えた子ども達の不安定な心理状況を
『旧約聖書』で楽園から裸で追放されたアダムとイヴの心境になぞらえ、
壁と屋根のある家をつくり、身を隠し、自分を守る場所を手に入れることによって、
安心することができる、という意味合いもあります。
そうしてルビコン川を渡った子ども達は、
外の世界とのバランスをとりながら、
次のステップの7年間へと向かうのです。
14~21歳までは、思考(抽象的・論理的思考)を養う時期です。
21歳の自立に向け、それまで育んできた「意志」と「感情」を、
思春期ならではの豊かな感受性で「思考」へと昇華させていきます。
この時期の子ども達は、「世界は真である」ということを求め、
自分と出会い、自分の進むべき道を、自分で選び取り、
まだひよわな羽で世界へと飛び立っていきます。
そうして、21歳で成人したあとも、
天使(見えない存在)に守られながら、
28歳ごろには、本当の意味での自立の時期を迎えます。
その後も、7年周期で成長は続いていくのですが、
詳しくはまたの機会にいたします。
シュタイナー学校のカリキュラム
シュタイナー教育というと、
自然素材のおもちゃだとか、無農薬の食材を使うなど、
自然育児のように思っている方も多いかと思います。
たしかに、幼児教育では、特にそういう面もありますが、
それはシュタイナー教育の一部分であって、本質ではありません。
また、小学校に入るまで、文字の読み書き、数の数え方も教えず、
小学校に入っても、歌ったり、踊ったり、絵を描いたりして遊んでいるだけで、
勉強らしい勉強をしていない、という誤解をされることもります。
シュタイナー教育では、音楽や美術などの芸術的な要素を切り離さず、
生活と一体であるというとらえかたをしています。
歌うことも、絵を描くことも、体を動かすことも、
特別なことではなく、生きる上で大切なこと、学びであるのです。
そのため、シュタイナー学校では、
音楽でも美術でもない、算数や国語の授業でも、
歌ったり、踊ったり、絵を描いたりという芸術的な体験が
授業の流れとして自然に組み込まれています。
シュタイナー学校での、国語や算数などのメイン教科の授業は、
「エポック授業」(エポックとは、ドイツ語で期間・区切りの意味)と呼ばれ、
1年生から12年生まで等しく、授業時間はおよそ100分ほどです。
とはいえ、100分間ずっと机に座って勉強しているわけではなく、
歌ったり、踊ったり、お話を聴いたりして、
実際に机に向かってノートを描いているのは、
100分のうちのほんの20~30分程度です。
通常の学校教育では、1時間目が国語、2時間目が算数…となっていますが、
シュタイナー学校では、この1ヶ月間は算数、次の1ヶ月間は国語…
という風に、ある期間にひとつの科目を集中的に学習します。
1ヶ月ごとに1科目ずつ学んでいたら、
前のことを忘れてしまうのではないかと思いますが、
忘れることも大切で、一度学んだことを一定期間置く(忘れる)ことで
学んだものを、しっかりと深いところに根づかせるのです。
シュタイナー学校の学習カリキュラムは、
成長の段階に合わせ大枠のテーマが決まっています。
1年生は、「グリム童話」などを題材に、ファンタジーの世界にひたります。
2年生は、「聖人伝」を通して、自分の中の聖なるものと俗なるものを見つめます。
3年生は、「創生期」「古事記」などの神話を通して、自分の世界を創造します。
4年生は、「動物学」「郷土史」を通して、人間を客観的に見つめていきます。
5年生は、「植物学」「古代史」などを通して、より大きな世界へと目を向けます。
6年生は、「物理学」や「天文学」などを通して、ものごとの因果関係を探ります。
…と、カリキュラムは12年生まで続きます。
これらエポック授業の教科には、いわゆる教科書というものはなく、
授業中に教師が描いた板書を写したノートが、
そのまま、子ども達ひとり一人のオリジナルの教科書になります。
そして、シュタイナー学校には、テストや通信簿など、
評価というものが一切ありません。
通信簿がないかわりに、一年の終わりに
担任教師がクラスの子ども一人ひとりに、
その子の今年一年の成長と、来年へのテーマをこめた
教師自作の「詩」を贈ります。
この詩が通信簿のかわりとなるのです。
そうして、1年生から8年生まで、
同じ一人の教師が担任として持ち上がり、
8年間、子ども達の成長を見守ります。
8年間を終えた子ども達は、担任の教師から巣立ち、
9年生から12年生までは、高等部でさらに学びを深めていきます。
こうして12年間の学びを終えた子ども達は
真に自由で自立した人間へと成長し、
シュタイナー学校を巣立っていきます。
シュタイナー学校で学ぶと、大学受験や、社会に出てから、
様々な競争に耐えられないのではないかという声もありますが、
12年間、本当の意味で「学ぶ」ということを身につけた子ども達は、
受験勉強にも集中でき、合格実績を上げていると聞きます。
社会に出てからも、偏りのないニュートラルなものの見方が出来るので、
他人と衝突することもなく、自分の実力を存分に発揮できるといいます。
シュタイナー学校での様々な学び・体験を通して、
物事を多角的に見ることを学んだ子ども達は、
物質的なものと精神的なもの、どちらか一方に偏ることなく、
上手にバランスをとって、現実社会を生き抜いているようです。
これが、いわゆる「全日制」のシュタイナー学校です。
全日制といっても、ほとんどが学校法人としては認可されておらず、
NPOとして運営しているフリースクールですが、
ある程度の生徒数のいる学校となると、日本でもまだ6校ほどしかありません。
土曜学校と「森の学校」
土曜学校は、
「全日制のシュタイナー学校には行けないけれど、
シュタイナー教育を学ばせたい」
という親たちの想いからできた草の根活動の学校です。
子ども達は、平日は公立や私立の学校に通いながら、
週末だけ、シュタイナー教育の学びを体験するために集まります。
けれども、カリキュラムの全部はとうてい無理なので、
その中の一部を、エポック授業や様々な体験授業として学びます。
期間は土曜学校にもよりますが、小学校と同じ6年間のところが多いようです。
「森の学校」は、大田区の鵜の木にある
嶺町幼稚園というシュタイナー幼稚園の卒業生の親達が中心となり、
「もう少しこの雰囲気(ゆったりとしたペース)の中で子ども達を育てたい」という
想いで出来た学校です。
多摩川まで歩いていける距離で、都心ながら緑が多く環境のよいところです。
子どもへの理解があり、教育に関心のある保護者が多いです。
森の学校の学修期間は3年間です。
本来なら6年生まで続けたいところですが、現時点では様々な状況から難しく、
「せめてルビコンの時期までは」ということで、3年生までの3年間となっています。
経営者や主催者がいる塾などとは少し違い、
とりまとめ役の保護者代表はいますが(毎年変わります)、
保護者と教師が協議しながらつくりあげていくのが、森の学校のスタイルです。
学校運営に関わる手続きや準備等に関しては主に保護者が行い、
授業の進行は、教師がイニシアチブをとっています。
何かを決める時も、納得のいく答えがでるまで、保護者と教師が全員で話し合います。
そんな風に、保護者と教師が二人三脚でつくっている学校です。
活動は土曜の午前中に、主に嶺町幼稚園の教室を借りて授業を行っています。
授業は主にエポック授業ですが、不定期で手仕事の授業を取り入れており、
3年生になると、専科授業として家づくりや米づくりなどの授業を行います。
家づくりや米づくりに関しては、全日制のシュタイナー学校でも、
思うように実現できないところもあるようで、
土曜学校で、家づくりも米づくりも体験できるというのは、
かなり恵まれた環境にあると自負しています。
子どもが子どもらしくいられることがとても困難なこの時代、
森の学校で週末を過ごすことの意義は大きいと思います。
森の学校で過ごす3年間は、
子どもにとっても、親にとっても、教師にとっても、
かげなえのない時間となることでしょう。
時代が大きく移り変わろうとしている今、
子どものなかにまっすぐな“光の柱”を立てるシュタイナー教育は、
未来を担う子ども達にとって必要な学びであると確信しています。
森の学校という「学びの場」づくりに
みなさまとご一緒できることを、心より楽しみにしています。